野球漫画MAJOR(メジャー)ではじめて知った「ジャイロボール」の存在。
筆者は、主人公の茂野吾郎選手が投げる魔球としか認知していなかったのですし、ジャイロボールと検索すると、「ポケモンの必殺技の一つ」としても紹介されているので、実在しない球種だと思っていたのですが・・・
実は、本当に存在する球種なのです。
では、ジャイロボールとは一体どんな球種なのでしょうか?ここではジャイロボールに関する秘密を紐解いていきたいと思います。
ジャイロボールとは何??
最初にジャイロボールについてですが、英語表記だと「Gyro ball」となり、Gyroとは「縦横両方向に回転する」という意味だそうです。
よくライフルの銃弾やアメフトのロングスローの回転を引き合いに出して説明されますが、いわゆる「螺旋回転」のような回転軸で、ボールの進行方向に回転軸が向いているのが特徴です。
ジャイロボールは空気抵抗によって変化の仕方に違いが出てきますが、
- フォーシームジャイロボール
- ツーシームジャイロボール
の大きく分けて2種類に分けられます。
ジャイロボールの空気抵抗の受け方による種類
ジャイロボールは、空気抵抗の向きによって、変化の仕方が変わりますが、4方向の回転軸の向きがあると考えられていて、投手方向から見た時に
回転軸 | 成分 | 変化 |
三塁側の進行方向(右)へ回転軸が傾いた時 | バックスピン | 上向き揚力で落ちにくい |
上向きに回転軸が傾いた時 | サイドスピン | 左へ変化 |
下向きに回転軸が傾いた時 | サイドスピン | 右へ変化 |
一塁側の進行方向(左)へ回転軸が傾いた時 | トップスピン | 下向き揚力で通常より落ちやすい |
に分類されます。
ここまで書いたように、ジャイロボールと一言で言っても、変化の向きは4方向ありますし、選手によってはカットボール、スプリット、フォーシーム、ツーシームなど、様々な球種で表現する事もありますし、一つの魔球ではありません。
ボールの空気抵抗とマグヌス効果
野球のボールは、進行方向とは逆向きのバックスピンを起こしながら進んでいきますが、ボールの上側と下側では、空気の流れが逆になりますので、圧力が変わり、下から上に引っ張られる浮力を得る事になり、ボールがホップして見えるようになります。
図で解説すると、
写真引用 回転数と回転軸の傾きが球速に反映
ボールの上は圧力が低くなり、ボールの下は圧力が高まり、上への浮力が「マグヌス効果」と呼ばれる力になります。
しかし、ジャイロボールの回転軸では、ボールの上と下での圧力に差がなくなりマグヌス効果が発生しないという事で、様々な変化が生じるという事になります。
フォーシームジャイロボールの正体
ここまで空気抵抗や回転軸からジャイロボールを考察してきましたが、ジャイロボールには大きく分けて2種類あると先に書いた通りですが、一つ目のフォーシームジャイロボールとはどんなボールなのか?をここから書いていきたいと思います。
フォーシームジャイロボールは、回転軸を中心に対称な縫い目を見せながら進行方向へ進んでいくので、対称ジャイロとも呼ばれますが、あらゆる球種の中で空気抵抗が一番少ないので「初速と球速差が一番小さい球種」と言われています。
多くの投手が投げるフォーシームストレートよりも球速差が小さいので、体感的にも速いと感じるストレートや球速が速く落ちるスプリットはフォーシームジャイロの種類だと思います。
- 藤川球児選手のストレート
- 田中将大、大谷翔平選手のスプリット
- 山本由伸選手の高速フォーク
- 千賀滉大選手の高速スライダー
などは、フォーシームジャイロに分類されると言っても良いと思います。
一方で、2つ目目のツーシームジャイロボールですが、回転軸を中心に非対称な縫い目を見せて回転するので、非対称ジャイロとも呼ばれますが、空気抵抗をより多く受ける事もあり、変化量も大きい球種でスラッターや高速カーブなどはツーシームジャイロボールの種類だと思います。
- ピアースジョンソンの高速カーブ
- 則本昂大、ダルビッシュ有選手のスラッター
は、ツーシームジャイロに分類されると言っても良いかと思います。
近年注目されるスラッターはツーシームジャイロの一種
ツーシームジャイロも回転軸と変化に違いが出ますが、近年漫画ダイヤのAでも名前が出るようになってきたスライダーとカットボールの中間的な位置づけの「スラッター」も、実はツーシームジャイロの一種では無いか??と言われています。
スラッターは、高速なストレートのような球道から鋭く曲がるカットボールと、スライダーのように大きく曲がる球道の中間的な位置づけで、解説者によっては縦のカットボール、速いスライダーと呼ぶ人もいます。
かつて、スライダーの使い手でナンバーワン投手と言っても過言ではない投手に、伊藤智仁投手がいますが、伊藤選手のスライダーは当時「高速スライダー」という表現がよくされていましたが、スラッターと高速スライダーは、厳密にはちょっと違いがあります。
イメージ的に言えば、
特徴 | |
スラッター | ジャイロ回転のため、球速も落ちずにカットのように手元で鋭く曲がる感じ |
高速スライダー | サイドスピンのため、球速は速いが、ブーメランのような軌道で大きく曲がる感じ |
です。
伊藤智仁選手のスライダーも、十分魔球の域に達しているとは思いますが、今動画を観ても惚れ惚れするような投球に圧倒されます。
マリアノ・リベラ投手もジャイロボーラー
ジャイロボーラーに名前が挙がる投手は数多くいますが、その中でもメジャー史に名を残す選手として知られているのは、ニューヨーク・ヤンキースで長年抑えとして活躍した「マリアノ・リベラ」投手です。
リベラ投手の投球割合はほぼカッターと呼ばれる球種のみでしたが、回転軸を微妙にずらす事で、変化の向きを変えていたのでは??と言われています。
具体的には
回転軸 | 成分 | 変化量 |
上向きに回転軸が傾いた時 | サイドスピン | 左へ変化 |
下向きに回転軸が傾いた時 | サイドスピン | 右へ変化 |
と同じフォーム、握りでも投げる瞬間の回転軸を修正するだけで、左へ右へと動かしていたため、高速カットと高速シンカーを同時に操っていたという事になります。
回転軸を変えるには、相当握力が強くなければ意思通りに操る事は無理だと思いますが、それをやってのけてしまうリベラ投手だからこそ、長年ヤンキースの抑えが務まったんでしょうね。
ジャイロボールの浮き上がる投げ方はオーバースローでは難しい?
ジャイロボールの中で、浮き上がるようなボールを投げるには、回転軸が右方向にズレる事で生まれる球種ですが・・・
かつてダルビッシュ有選手がオールスターで投げた事で知られるのが「ライジングカットボール」と呼ばれる球種で、対戦した阿部慎之助選手からは、
「アンダースローのように浮くボール。ファウルでしのぐのが精いっぱいだった」
とコメントされた魔球です。
オーバースローで投げながら、ボールが浮き上がるイメージで、しかも左打者の胸元に曲がってくるボールと聞くだけで、とても厄介な球種です。
ダルビッシュ選手は、メジャーに挑戦する前から、すでにジャイロボールを投げ分けていたという事になりますが、一般的にはサイドスローやアンダースローの投手の方が浮き上がるようなジャイロボールを投げるのは得意です。
オーバースローから浮き上がるようなジャイロボールを投げる投手は、球界の中でもほぼいないので、稀に見るボールのため魔球と言っても良いかも知れませんね。
ジャイロボールは打ちやすい?それとも打たれない?
ジャイロボールは魔球のように言われる球種ですが、日本人って古くは巨人の星にはじまり、MAJORやダイヤのAといった人気野球漫画で魔球が出現する事も多く、魔球を使えば打てないというイメージって根強いと思います。
筆者自身も、ジャイロボールと聞くだけで魔球を投げていると思っていた時期もありますし、ジャイロボールが存在するなら、打者は誰も当てられないと思っていましたが・・
実際のジャイロボールにも長所もあれば、短所もあるのは事実です。
近年のデータ野球に代表されるように投手の回転数の研究も、かなり解明されてきていますが、それ以前はジャイロボールは「スライダーやカットボールの投げ損ないで曲がらないボール」と失投だと、ダルビッシュ選手や松坂大輔選手はTwitterでコメントしていました。
その点で言えば、松坂選手はジャイロボールを意識的に投げていたわけではなく、あとで研究が進んだ結果、スライダーやカットボールの曲がりきらないボールや逆球となったボールで打ち取ったことがあるという事なのかも知れません。
ジャイロ回転でボールが回っていても、投球が重たくなるという事もありませんし、バットをへし折るなんて事もありませんし、特別な球種ではなく、ジャイロ回転を活かした変化の軌道を上手く使い分ける事で打ちにくくなっていきます。
また、回転軸をずらすのに、力の入れ具合を変えるだけで、握りを変えずにスライダーやカーブの球速や曲がり具合を変える事も出来ます。
自由に組み合わせを変えられるという点で見れば、ジャイロボールを操れるようになるという事は、球種を増やす事と同じだと思いますし、どの組み合わせをすれば自分のベストピッチが出来るか??を探っていく事こそが、一番重要です。
そういった意味で言えば、ジャイロボールと呼んで楽しむのはファンが楽しむ事で、実際にプレーするプロ野球選手は、ジャイロ回転を意識する必要よりも、むしろどんな球種を必要としているのか??自分と向き合っていく事の方が重要なのだと、今回ジャイロボールについて調べて感じました。
今後もピアットジョンソン選手が投げた高速カーブにパワーカーブという名称が付けられたり、シンカーの高速化に伴って高速シンカーや高速チェンジアップと呼ばれたり、亜大ツーシームやお化けフォークのような新しい魔球がどんどん出現してくるかと思います。
その度、解説者や研究者が分析し、居酒屋などで変化球談義が行われる・・笑
そんなシーンがたくさん生まれますように、様々な変化球に取り組んでほしいですし、ニューフェースの選手が出現するのを楽しみにしていたいと思います。
野球に関する理論を色々と書いています。