メジャーで先発投手の評価をするのに近年重要視されてきたQS(クオリティスタート)ですが、メジャーでオープナーやブルペンデーといった起用も増えてきた事で、以前よりも重要視されなくなってきています。
クオリティスタートは今後どのような指標となっていくのでしょうか?先発投手だけでなく、リリーフ投手の評価も今後変わってくる可能性があり、メジャーだけでなくNPBでもトレンドとなっていくのでしょうか?
ここでは、クオリティスタートを原点に色々と考察したいと思います。
クオリティスタートがオワコン化??
クオリティスタートは、自責点3点以下という条件もあるので、防御率とは相関性がありますが、クオリティスタートを達成しても、先発投手に勝利が直結するかと言えば、必ずしもそうではありません。
メジャーの平均球速を、2007年と2017年で比べてみたところ
2007年 | 平均球速146.6km/h |
2017年 | 平均球速150.1km/h |
と3.5キロと伸びており、高速化がトレンドになってきています。
これは、FBR(フライボール革命)やセイバーメトリクスによるデータ野球が浸透した事で、打者の進化が目覚ましいという事もあって、投手も対応するために球速アップしているのですが、実は球速アップの弊害が出ているのが・・
「投球回数が短くなってきている」
という事実です。
投手は常に全力で投げ続ける必要がある?
球速が上がるというのは、ポジティブな見方をすれば、トレーニング方法の見直しなどで筋力や身体能力がアップしていると言えますが、人間の能力には限界もあります。
また、球速がアップしていても、バッターのレベルが上ってきているので、1番から9番まで手を抜いて投げる場面が少なくなってきているので、ほぼほぼ全力投球を続けなければいけない・・
となると、どれだけ優れた投手でも、100球も全力投球すればバテてきますので、球数から逆算すれば持って7回、短ければ5回でマウンドを降りる先発投手も多くなるのは当然です。
また、最近のメジャー投手は、先発5番手、6番手投手でも95マイル以上を投げるので、先発4番手以上の投手と力の差が大きくなくなってきている事もあり、メジャー全体で投手レベルの平均を上げているという事が言えます。
こうなってくると、突出した先発能力の高い投手以外は、先発する理由がなくなってきますので、オープナーやブルペンデーを使う球団が増えてくるのも無理もない話だと思います。
そもそも、オープナーやブルペンデーは、2018年のタンパベイ・レイズが先発投手に怪我人がたくさん出たために、苦肉の策として始めたものですが、実は近年のメジャーのトレンドに合った戦略だった事もあり、他球団も本格的に活用し始めています。
NPBでもオープナーやブルペンデーを採用する球団も
2019年にはNPBでもオープナーやブルペンデーを採用する球団があり、日本ハムや巨人でも試されました。
結果はともかく、近年のNPBでも「規定投球回数に届いた人数が減っている」ので、今後ますます採用される可能性はあると思います。
変わりゆく先発投手の役割【NISSAN BASEBALL LAB】さんの記事によると、
日本の先発投手の20回以上先発した投手は、年々減少し、平均投球回数も短くなってきています。
ダルビッシュ有、田中将大、前田健太、菊池雄星といったイニングイーターの投手がメジャーへ移籍し、突出した選手が減ってきているのも影響していますが、2019年は1軍登録枠が一人増えたのでリリーフ投手を登録させている球団が多いのも大きな影響です。
先発ローテーションは、5~6人で回すので増える事はありませんが、リリーフ投手が一人増えた事を利用して、オープナーやブルペンデーを活用する戦術も取りやすくなってきていると思います。
先発投手のイニング数は勝敗に直結しない?
先程の図の通り、平均投球回数や投球数が減ってきている中で、規定投球回数の重要性は薄れ、クオリティスタートを達成する投手も減ってきているのは事実ですが、とは言えども先発投手が試合を作ればチームの勝敗に直結するのでは?
という事で、調べてみたところ、同じく変わりゆく先発投手の役割【NISSAN BASEBALL LAB】さんの記事の中で紹介されていましたが、
クオリティスタートの基準となる3失点よりも「6回未満で2失点以下」でマウンドを降りた方が、勝率が高いというデータが出ています。
先程も触れた通り、メジャーでもNPBでも突出した先発能力を持つピッチャーが減ってきているので、無理をして長く引っ張らなくても、リリーフ陣が強固であれば高い勝率で乗り切っていく事が出来るという事になります。
阪神タイガースはなぜ優勝出来なかったのか疑問
ここで一つ疑問が残るのが、2019年の阪神タイガースはなぜ優勝出来なかったのか?という点です。
チーム防御率、リリーフ防御率共にセ・リーグナンバーワンのため、上記の法則に当てはめると先発投手が崩れても、リリーフ陣で勝ちを拾えるはずでは??
と素人ながら疑問に感じました。
優勝チームに借金5
まず一つ目の大きな理由は「巨人戦での借金が5」あった事です。
特定のチームに苦手意識があると、優勝に大きな弊害になりますし、まして優勝した巨人に対して借金が5あるという事は、かなりのネガティブ要因になります。
交流戦に弱く大きく負け越し
広島ほどではないですが、阪神タイガースは交流戦で借金4と大きく負け越しています。
交流戦の勝敗は、リーグ内の順位に直結するので、以前よりも対戦数が減ってはいてもオールスター前の重要な戦いになります。
特に、セ・リーグはパ・リーグに15年の歴史がある中、14度の負け越しをしていて、完全に力負けしている印象です。
逆に、優勝した巨人は交流戦は貯金4と、近年負け越してリズムに乗れなかった時期をで上手く乗り切っています。
打撃と守備面でリーグワーストの成績
投手陣は整備されている一方で、阪神ファンからよく聞く言葉で、タイガースは「打てない」、「守れない」のが、近年の課題になっています。
チーム得点数はセ・リーグワーストの538得点、1試合平均にすると3.76点、チーム防御率が3.46のため、その差0.33となります。
逆に巨人の場合は、チーム得点数が633得点、1試合平均にすると4.63点、チームが3.77のため、その差0.86とかなり余裕を持って戦えています。
また、守備面については、失策102と100を超えているのはタイガースのみと、守備の乱れも足を引っ張っているところはあるかも知れません。
野球はトータルバランスが重要
阪神タイガースを例にして申し訳ですが、2019年のリリーフ陣はジョンソン投手だけでなく、岩崎選手、能見選手はじめ、素晴らしいピッチャーが多くまさに鉄壁のリリーフ陣でしたので、参考にしやすいと思いました。
このようにして見ていくと、ブルペンがいかに強固であっても野球は「ピッチャーだけで勝てるわけではない」という事です。
打撃、走塁、ベンチ、選手、そしてファームの選手も含めて、チームトータルでバランスの良いチームが勝つという事で、エースや4番だけに頼っては勝てないという事が言えると思います。
クオリティスタートは今後どうなる?
今まで先発投手の評価するための指標として
- 勝利数
- 勝率
- 奪三振数
- 防御率
がありました。
それぞれ、最多勝、最高勝率、最多奪三振、最優秀防御率と表彰対象にもなり、投手4冠や沢村賞の評価対象にもなるので、無視はできないと思います。
しかし一方で、NPBの投手もメジャーと同様にトレーニングによる筋力や身体能力のアップで「能力の平準化」が進む可能性もあり、突出した先発能力を持つ投手も減っていく可能性があります。
そうなってきた時に、規定投球回数という概念や勝利数は意味をなさなくなってくる可能性があり、それと共にクオリティスタートの概念もなくなっていくのでは??と思われます。
また、ここまで示したデータの通り、クオリティスタートは防御率が良化する相関性は当たり前にありますが、勝利数が伸びることには直結せず、むしろなるべく失点が少ないうちに継投に入ったほうが勝率が上がる可能性があります。
2019年、パ・リーグの規定投球回数を達成した選手は、
- 千賀滉大(ソフトバンク)180回3分の1
- 山岡泰輔(オリックス)170回
- 有原航平(日本ハム)164回3分の1
- 美馬学(楽天)143回3分の2
- 山本由伸(オリックス)143回
- 高橋礼(ソフトバンク)143回
の6人のみです。則本昂大選手、岸孝之選手は怪我の影響、涌井秀章選手は不調の影響でイニング数が伸ばせていないので、2019年に限ってかもしれませんが、セ・リーグでも8人しか規定投球回数を達成する選手は出ていません。
沢村賞の基準である「投球回数200イニング以上」なんて、もはやオワコン化してしまいそうな勢いですし、先発完投型のピッチャーという概念は、今はもう薄れつつあるという事を前提に、沢村賞には別の基準を設けるなど、時代に合った変化をしてほしいとは思います。
先発完投というよりは、先発責任投球回数をクオリティスタートにするとか、何か別の方法があっても良いのではないか??と今回クオリティスタートについて考察してみて感じました。
2020年、クオリティスタートは重要視されるのか?それともオワコン化するのか?
時代の流れを見るためにも、メジャーの情報にもアンテナを張り、見識を広めていけたらと思いますが、よろしければTwitterやコメントを通して皆様の見解もお聞かせ頂ければ幸いです。
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